受注が増え、売上も伸びている。それなのに現場では残業が増え、新しい担当者への教育が終わらず、既存顧客の処理まで遅れ始める。大型案件のために採用した人を教育するのも、成果を検品するのも、すでに別の案件を抱える社員です。
売上の増加と、納品できる処理能力の増加は同じではありません。作業件数が増えるたびに作業者を増やせても、質問、検品、差し戻し、例外判断まで同じ方法で増やすなら、管理に必要な人数と費用も膨らみます。次の案件を受ける前に、何が件数とともに増え、何を共通の仕組みとして扱えるかを確認する必要があります。
大型案件が既存業務を遅らせるのはなぜか
たとえば、毎月続くデータ入力業務を運用している部門が、大量の書類確認案件を新たに受ける場合を考えます。新規案件へ作業者を割り当てても、立ち上げ時には経験者が手順を説明し、質問に答え、最初の成果を確認しなければなりません。その間、既存案件の質問回答や検品が遅れます。
新規案件の入力件数が増えても、両案件を合わせた納品可能件数が増えているとは限りません。未検品の成果や回答待ちの質問が後工程に残るためです。繁忙期には残業や臨時採用でしのげても、平常時に人を抱え続けるか、次の繁忙期に募集と教育をやり直すかという問題が残ります。
売上が増えれば必ず利益率が下がるわけではありません。確認したいのは、受注のたびに作業者と管理担当者を同じように追加しなければ、従来の品質と納期を守れない構造かどうかです。
件数に比例する仕事と、まとめられる仕事を分ける
まず、現在の業務を一件の処理に直接必要な仕事と、複数件・複数人に共通する仕事に分けます。米国品質協会の工程可視化の解説でも、処理の各段階と情報の流れを追う考え方が示されています。ここでは、実際の案件が受付から納品までに通る工程を書き出します。
| 区分 | 書類確認・データ入力での例 | 増量時に確認すること |
|---|---|---|
| 件数に比例する作業 | 書類を開く、必要事項を読む、入力する、原本と照合する | 一件当たりの手間を減らせるか。必要な確認は残せているか |
| 共通化できる管理 | 手順の説明、質問の記録、作業配分、進捗の集計 | 人や案件ごとに同じ説明・判断を繰り返していないか |
| 専門担当へ集約する判断 | 書類間の矛盾、取引先固有の条件、回答方針の決定 | 全作業者が判断を抱える必要があるか |
| 例外対応 | 資料不足、読めない画像、対象外の書式、システム障害 | 通常作業を止めずに保留・振り分けできるか |
件数に比例する作業は、量が増えれば必要な時間も増えます。一方、共通の説明を一人ずつ行う必要があるか、同じ質問に管理者が何度も答える必要があるかは、業務の作り方によって変わります。顧客ごとの条件が異なるなら、その違いを最初に分類し、共通部分と個別部分を分けて扱います。
一人で完結させるか、工程を分けるか
一人が書類の受付から入力、確認、問い合わせ、完了処理まで担当すれば、引き継ぎは少なく済みます。案件の背景を理解した人が最後まで扱えるため、少量で例外が多い仕事には合う場合があります。ただし、人が増えるたびに広い範囲を教育しなければなりません。
工程を分けるなら、受付と書類の分類、通常の入力、照合、専門判断、最終確認を別々に設計できます。入力担当者は共通の基準で通常案件を処理し、判断が必要な案件だけ専門担当へ回します。ただし、分業すれば引き継ぎと待ち時間が生まれます。案件を渡す条件や判断結果の記録が曖昧なら、分けた分だけ管理費が増えます。
どちらが合うかは、件数、作業のばらつき、教育時間、例外の頻度を見て決めます。個々の操作をどう短縮するかは処理時間を工程から見直す記事で扱っています。本記事で問うのは、その改善を案件全体の処理能力につなげられるかです。
入力を速める前に、入力させる内容を見直す
作業時間を短くするには、毎件行っている操作を調べます。書類の種類が決まっているなら自由記述を選択式にする。添付ファイル名から分かる情報を再入力させない。後工程で使わない項目は収集する必要があるか確認する。確認項目も一律に省かず、誤りが納品物へ与える影響を見て残します。
書類の向きや形式をそろえる、必須項目の空欄を見つけるといった前処理は、自動化できる場合があります。AIや自動化に通常案件の分類や入力候補の提示を担わせ、人は読めない箇所や矛盾を確認する形です。ただし、正常と判定された結果にも誤りは起こり得ます。試行段階では人が結果を確認し、何を通し、何を保留にするかを決めます。
入力時間が減っても、後工程で人による確認と修正が増えれば、納品までの総工数は減らない可能性があります。自動化した工程だけで効果を判断しないことが必要です。
処理件数と一緒に、やり直しと判断待ちを測る
増量に耐えられるかを判断するには、入力件数に加え、次の数字を同じ期間で確認します。
- 納品可能件数:作業と必要な確認を終え、そのまま納品できる件数
- 初回合格率:最初の検品で基準を満たした件数の割合
- 手戻り率:差し戻しや再作業が必要になった件数の割合
- 質問率:処理件数に対して、確認が必要になった案件の割合
- 例外率:通常の手順では完了できず、別工程へ回した案件の割合
定義をそろえ、案件の種類や担当工程も一緒に記録します。顧客固有の書式で例外が増えたのか、作業指示の不足で質問が増えたのかでは、打ち手が違います。進捗率だけでは納期を判断しにくい理由は進捗と納品予測の記事、手戻りが発生する位置による費用の違いは手戻りの原価の記事で扱っています。
管理工数を案件原価として見る
案件別の採算を売上と作業者の人件費だけで判断すると、社員や管理者が使った時間を見落とします。立ち上げ教育、質問回答、作業配分、検品、差し戻し、例外判断、進捗報告も、案件を納品するための仕事です。
管理者の残業や既存案件の遅延で新規案件を支えている場合、その負担は新規案件の原価として見えにくくなります。案件ごとに管理業務の種類、担当者、所要時間を記録し、作業費と分けて確認します。
| 管理工程 | 記録するもの | 確認すること |
|---|---|---|
| 立ち上げ・教育 | 説明、練習、初期確認に使った時間 | 受注のたびに同じ教育を繰り返していないか |
| 質問・例外対応 | 質問件数、回答者、回答までの時間 | 処理量の増加以上に負担が増えていないか |
| 検品・再作業 | 検品時間、差し戻し件数、再検品時間 | 作業単価の外側で工数が膨らんでいないか |
| 進捗・顧客対応 | 集計、報告、調整に使った時間 | 案件ごとの個別管理を共通化できないか |
売上や処理件数の増加に対し、管理工数が同じ割合で増えるのか、それ以上の速さで増えるのかを見ます。繁忙期の臨時採用と教育、仕事が少ない時期の待機、契約終了後の余剰人員も判断材料です。これだけで利益額や利益率が決まるわけではありませんが、次の案件を現在の価格と体制で引き受けられるか、社内で確認する材料になります。
次の大型案件を受ける前に、小さく試す
次の一万件を受けられるかは、作業者一人の入力速度だけでは決められません。実際の対象から、通常案件に加え、書式違い、不備、判断が必要な案件を含む小規模な試行を行います。作業開始から納品可能になるまでの各工程を確認します。
パイロットでは一件当たりの作業時間だけでなく、管理者、検品者、質問対応者が使った時間も記録します。想定件数まで増やした場合の作業費と管理費を分けて見積もり、現在の価格と体制で受注できるか判断します。既存案件を担当する社員が新規案件に使った時間も含めます。
通常案件の処理が速くても、質問と検品が特定の人へ集中するなら、人数を増やす前に分担を見直します。短期大量案件の試行をどう進めるかはフィジビリティ検証の記事で詳しく扱っています。
業務量の変動が大きい場合は、通常処理や検品、進捗管理の一部をBPOへ委託する選択肢もあります。ただし、発注者が毎回教育、質問対応、例外の振り分けを続ければ、管理負担は残ります。発注者が持つ専門判断や最終承認と、委託先が担う作業・管理工程を先に決めることが必要です。
次の受注のために、また同じ割合で人を採用する必要があるのか。件数に比例する作業、共通化できる管理、専門判断、例外対応を分けて原価を確かめると、増員すべき場所と、投資して仕事の作り方を変えるべき場所が見えてきます。
BPO OPERATIONS SUPPORT
受注増に対応する作業工程と管理体制をご相談いただけます
株式会社イングクラウドでは、現在の業務を件数に比例する作業、共通化できる管理、専門判断、例外対応へ分け、試行、作業者手配、進捗管理、検品を含む運用体制の設計を支援しています。外部へ移す工程が決まっていない段階からご相談いただけます。
