一件100円の作業でミスが発生したとき、損失は100円だけではありません。不良箇所を探し、作業者へ連絡し、修正内容を説明し、再提出された成果物をひも付け、もう一度検品します。
しかし、ミスと手戻りの原価を一律に「一件当たり何分」と見積もることもできません。同じ一件の不良でも、作業の途中で気づいた場合と、すべて完成してから気づいた場合では、やり直す範囲がまったく違うからです。
BPOの品質管理では、不良率だけでなく、どの工程で不良に気づけるかを設計する必要があります。長い作業なら工程を分ける。分けずに一人が担当するなら、後戻りが大きくなる前に確認できるセーブポイントを置く。この設計によって、同じミスでも原価と作業者の負担を小さくできます。
ミスの原価は、発見した時点で変わる
たとえば、企業情報を一件ずつ調査してデータベースへ登録する作業があるとします。
- 対象となる企業を探す
- 条件に合う企業か判断する
- 会社名、所在地、業種などを収集する
- 表記を統一して入力する
- 根拠となるURLを確認する
- データベースへ登録する
2番目の対象判定を間違えたまま6番目まで進めば、それ以降の情報収集や入力はすべて納品に使えません。検品者が最後に不良を見つけても、入力欄だけを直して解決する問題ではなく、別の企業を探すところからやり直しになります。
反対に、対象候補を数件選んだ段階で確認できれば、誤った候補を外してから後工程へ進めます。発生したミスは同じでも、失われる作業時間は大きく異なります。
ミスの原価は、修正作業の難しさだけではなく、間違った状態のまま後工程をどこまで進めたかによって決まります。
作業者への報酬だけを見ていると、この差は見えません。検品、差し戻し、再説明、再提出管理、再検品に加え、誤った前提で行われた後工程も原価に含まれます。このような品質不良によって発生する費用は、Cost of Poor Quality(COPQ)と呼ばれます。
一件の作業が長いなら、工程を分けられないか考える
一件を完成させるまでの工程が長いほど、最初の判断ミスが最後まで持ち越される危険があります。その場合は、作業を一人へまとめて任せず、工程ごとに分ける方法があります。
先ほどの企業情報収集なら、「対象企業を選ぶ工程」と「対象企業の情報を入力する工程」を分けます。最初の担当者が候補と判断根拠をそろえ、検品を通過したものだけを次の担当者が入力します。
こうすれば、対象外の企業について何項目も調べる無駄を減らせます。後工程の作業者も、対象かどうかを毎回悩まず、必要項目の収集と入力に集中できます。
ただし、細かく分ければ必ず安くなるわけではありません。工程の間には、データの受け渡し、担当者間のひも付け、進捗管理が増えます。前後の工程を切り離しにくい仕事や、一件の処理時間が短い仕事では、分業の管理費のほうが大きくなることもあります。
分けるべきなのは、次のような工程です。
- そこで判断を誤ると、後工程の大部分が無駄になる
- 合否や完了条件を比較的明確に定義できる
- 後工程へ渡す情報を一定の形式にそろえられる
- 担当者を分けることで、それぞれの作業が単純になる
一人で完結させる場合も、途中にセーブポイントを置く
業務によっては、一件を同じ作業者が最初から最後まで処理したほうがよい場合もあります。途中で担当者を変えると、案件の背景を読み直したり、前の担当者の判断を理解したりする時間が増えるためです。
その場合でも、完成まで一度も確認しない必要はありません。後戻りが大きくなる地点の直前または直後に、途中確認を置きます。
たとえば、長い音声の文字起こしなら、一本すべてを終えてから話者名や表記ルールの誤りに気づくのではなく、冒頭数分を提出してもらいます。画像収集なら、大量に撮影する前に数枚を提出してもらい、構図、解像度、背景、対象物の条件を確認します。
このように、次の工程へ進めてよいか確認する地点は、Quality Gate(品質ゲート)やCheckpointと呼ばれます。作業者にとっては、ゲームの途中にあるセーブポイントに近いものです。
セーブポイントを通過した後に問題が見つかっても、少なくとも、それ以前の判断基準は合意できています。作業者も一件を完成させてから全体のやり直しを求められずに済みます。
すべての工程を検品すると、検品自体がボトルネックになる
手戻りを避けようとして、作業の一段階ごとに検品を入れると、今度は検品者の確認待ちが増えます。作業者は次へ進めず、検品者には細かな提出が集中します。
セーブポイントを置くのは、すべてのミスをその場で見つけるためではありません。その先へ進んだとき、修正範囲や損失が急に大きくなる地点で止めるためです。
設置する場所は、次の観点から決められます。
- ここで間違えると、後工程を最初からやり直すことになるか
- 間違いを客観的に確認できる地点か
- 作業者が次へ進む前に、検品結果を返せるか
- 自動判定やチェックリストで確認負担を減らせるか
- 確認を増やしても、削減できる手戻りのほうが大きいか
影響の小さい表記揺れや、最後に一括置換できるミスまで途中で止める必要はありません。早く見つける価値が高いのは、対象の選定、作業方針、撮影条件、分類基準など、後工程全体の前提になる判断です。
検品結果を返すまでの時間も工程の一部になる
セーブポイントを設けても、検品結果が翌日まで返らなければ、作業者は待つか、正しいか分からない状態で続きを進めることになります。後者を選べば、結局は不良品が増えます。
そのため、途中確認を置く場合は、誰が、どの程度の時間で確認し、合格後にどのように作業を再開するかまで決めておきます。確認件数が多いなら、検品者が見る前に入力漏れや画像条件をシステムで判定することもできます。
一件の中に検品地点を置けない短い作業では、10件程度を一つの小ロットとして扱います。最初の10件を配り、提出と同時に検品し、品質を確認してから次の10件を渡します。
これは、一件の内部に置くセーブポイントと同じ考え方です。違いは、確認単位が工程なのか、完成した件数なのかだけです。どちらも、大量に作り終える前に問題を見つけることを目的としています。
完成後の差し戻しは、作業者の負担も大きい
一件をすべて完成させた後で、「最初の判断が違うので、最初からやり直してください」と伝えると、作業者は完了したと思っていた作業をもう一度行うことになります。
業務委託で一件当たりの報酬が決まっていれば、やり直しに時間がかかっても報酬は増えません。仕様を誤解した本人に原因がある場合でも、大きな手戻りが続けば時間当たりの報酬が下がり、不満や離脱につながります。
作業開始時にすべての誤解をなくすことは困難です。文章で説明しきれない条件もあり、実際のデータを見て初めて分かる例外もあります。だからこそ、作業者の理解力だけに頼らず、誤解が大きな損失になる前に確認する工程が必要です。
途中で軌道修正できれば、作業者も間違った方法で何時間も進まずに済みます。検品者も、大量の不良品へ同じ指摘を繰り返す必要がありません。発注側、受託側、作業者のいずれにとっても、完成後の大規模な差し戻しより負担が小さくなります。
作業単価ではなく、合格品を作るまでの工程で原価を見る
BPOの見積もりで作業単価だけを比べると、検品や手戻りの費用が見えなくなります。作業者への一件当たり報酬が安くても、不良を完成後に発見し、何度も差し戻していれば、案件全体の原価は高くなります。
見るべきなのは、一回の作業にいくら払ったかではありません。基準を満たす一件を完成させるまでに、作業者、検品者、管理者が何回動いたかです。
ミスを完全になくすことを前提にするのではなく、ミスが起きても後工程へ広がらないようにする。長い作業は分割し、分割しない作業には途中確認を置き、短い作業は小ロットで検品する。手戻りの原価を下げるには、ミスをした後の修正方法よりも、ミスをどこで発見するかを先に設計する必要があります。
QUALITY GATE DESIGN
手戻りを小さくする作業工程を設計します
株式会社イングクラウドでは、作業工程の分割、途中確認を入れる地点、検品結果を返す体制、小ロットでの本番運用まで、ミスが後工程へ広がりにくい業務設計をご提案します。
