企業のバックオフィスでも、文章の作成、書類の読み取り、分類、要約などにAIが使われ始めています。しかし、AIへデータを渡した後は、社内の担当者が出力を確認し、間違いを直し、業務システムへ登録しているケースも少なくありません。
AIを導入しても、人の作業がなくなったわけではありません。AIの後ろに確認作業が残り、その部分だけが従来どおりのメール、Excel、担当者の経験で運用されていることがあります。
Human-in-the-loop(ヒューマン・イン・ザ・ループ、HITL)は、AIと人を対立させる考え方ではありません。AIだけでは完結しない業務の中に人の判断を組み込み、その結果を次の処理や改善へ戻せるようにする考え方です。
この記事では、Human-in-the-loopを機械学習の学習手法だけに限定せず、企業の実務においてAIと人が一つの業務を処理する仕組みとして扱います。
Human-in-the-loopとは何か
Human-in-the-loopは、機械による処理の途中に人が参加し、判断、修正、評価などを行う仕組みです。人が作った結果をAIの学習へ利用する場合もあれば、運用中のAIが確定できないものだけを人へ回す場合もあります。
Robert (Munro) MonarchのHuman-in-the-Loop Machine Learningでは、アノテーション、能動学習、転移学習、品質管理、作業画面の設計など、人と機械が協力する機械学習プロセス全体が扱われています。日本語版は『Human-in-the-Loop機械学習―人間参加型AIのための能動学習とアノテーション』として刊行されています。
また、NISTのAI Risk Management Frameworkでも、AIを設計、開発、運用する際には、人が担う役割と責任を明確にすることの重要性が示されています。
AIの後を人へ渡すだけではループが途切れる
現在よく見られるのは、AIへ処理を依頼し、その出力を社内担当者が確認する形です。
- 書類や文章をAIへ入力する
- AIが読み取り、分類、要約、候補作成などを行う
- 社内担当者が出力を確認する
- 担当者が誤りを修正し、業務システムへ登録する
この流れにも人は参加しています。しかし、人の修正結果や判断理由が記録されず、次の処理へ戻らない場合、AIから人へ業務を受け渡したところでループはいったん途切れています。
「AIが作成した後は担当者が適宜確認する」という運用では、誰が何を基準に確認するのか、判断できない場合は誰へ聞くのか、どのような誤りが多いのかが整理されません。AIを導入した後も社内の負担が思ったほど減らず、担当者への属人化だけが残ることがあります。
人が判断する工程もシステムとして扱える
人の判断をシステムに組み込むといっても、人を機械のように扱うという意味ではありません。人が担当する工程にも、インプット、作業仕様、アウトプット、例外処理を定義するということです。
| 設計項目 | AI・システムの工程 | 人が担当する工程 |
|---|---|---|
| インプット | ファイル、入力値、API | 画像、書類、AIの出力、作業画面 |
| 作業仕様 | プログラム、ルール、プロンプト | マニュアル、判断基準、具体例 |
| アウトプット | 判定値、JSON、CSV | 確定値、修正結果、判断理由 |
| 例外処理 | 再試行、エラーコード | 保留、質問、上位者への確認 |
| 品質管理 | 自動テスト、精度測定 | ダブルチェック、抜き取り検品 |
| 改善材料 | 処理ログ、エラーログ | 修正履歴、質問、判断の不一致 |
処理する主体は機械と人で異なりますが、業務工程として必要な要素は共通しています。人に渡すデータと、判断後に受け取るデータの形式を決めれば、人の作業も一連の処理の中へ接続できます。
Human-in-the-loopには二つのループがある
業務運用の観点から見ると、Human-in-the-loopには二つの循環があります。
1. 業務を完了させるループ
AIが処理し、人が確認・修正し、確定した結果を業務システムへ戻します。目的は、その時点の業務を正しく完了させることです。
2. 業務を改善するループ
人による修正、保留、質問、判断理由を蓄積し、プロンプト、処理ルール、作業仕様、AIモデルなどの改善へ利用します。目的は、次回以降の精度や処理効率を高めることです。
修正結果をAIモデルの再学習へ使うとは限りません。頻出する例外をルールへ追加する、入力形式を変える、プロンプトを直す、確認画面を改善するだけでもループは機能します。
バックオフィス業務ではどこに人を入れるか
すべてを人が処理すれば費用と時間がかかり、すべてをAIへ任せれば誤りや例外に対応できないことがあります。重要なのは、人を残すかどうかではなく、どこへ人の判断を置くかです。
| 工程 | 担当例 |
|---|---|
| AIへ任せやすい処理 | 文字の読み取り、項目抽出、要約、候補作成、定型分類 |
| 人が確認しやすい処理 | 元資料との照合、誤りの修正、分類結果の確認、例外の一次切り分け |
| 社内に残すべき判断 | 承認、法的責任を伴う判断、取引条件の決定、機密性の高い意思決定 |
例えばレシートや請求書を処理する場合、AIが店舗名、日付、金額を読み取り、信頼度の低い項目や形式に合わない項目だけを人へ回します。人は画像と結果を照合して修正し、確定データを返します。修正内容を集計すれば、特定の帳票や項目で誤りが多いことも分かります。
問い合わせ対応では、AIが内容を分類して回答候補を作り、人が内容を確認します。判断できないものは責任者へ回し、確定した回答と修正理由を記録します。こうした設計により、AIと人の処理が別々の作業ではなくなります。
人を入れれば品質が上がるとは限らない
Human-in-the-loopは、人を配置するだけで完成するものではありません。判断基準が曖昧であれば、担当者ごとに結果が変わります。作業量が多すぎれば見落としが増え、確認画面が使いにくければ処理時間も長くなります。
人が担当する工程では、少なくとも次の点を設計します。
- 何を確認し、何を確認しないか
- 正しい状態をどのように定義するか
- 判断できない場合に選べる保留区分
- 誰へ、どの条件でエスカレーションするか
- 全件検品と抜き取り検品をどう使い分けるか
- 判断結果と修正理由をどこまで記録するか
- 処理時間、修正率、不一致率をどう測るか
AIの精度だけを測るのではなく、人の確認まで含めた最終精度、処理時間、費用を確認する必要があります。AI単体の正答率が高くても、人が全件を詳しく確認していれば、業務全体として効率化できているとは限りません。
BPOの役割は「残った作業を引き取る」ことではない
AI導入後に社内へ残った確認作業を、そのまま外部へ移すだけでは属人化も一緒に移ります。Human-in-the-loop型のBPOでは、人が担当する範囲を切り出し、判断基準、作業画面、出力形式、検品、例外対応までを一つの工程として設計します。
従来のBPOで行われてきた、複雑な業務の整理、マニュアル化、作業者教育、質問管理、検品、進捗管理は、Human-in-the-loopにも必要です。対象が人だけで処理する業務から、AIと人が共同で処理する業務へ変わっても、安定運用に必要な考え方は共通しています。
Human-in-the-loopで重要なのは、単に人を残すことではありません。AIが処理し、人が確認する一連の流れを、一つのシステムとして設計することです。
HUMAN-IN-THE-LOOP OPERATIONS
AIと人を組み合わせた業務運用についてご相談ください
株式会社イングクラウドでは、AI処理後の確認・修正、例外対応、人手評価、アノテーションなど、人が担う工程の設計から作業者教育、検品、継続運用まで対応しています。現在社内に残っている確認作業を整理する段階からご相談いただけます。
