100件の画像が必要なら、100件を集めて、不合格になったものを一件ずつ撮り直してもらう。これは一見、無駄のない進め方に見えます。
しかし実際には、修正や撮り直しを前提にすると、検品者は作業者が対応できる間に結果を返さなければなりません。提出された画像を即座に確認し、不合格理由を伝え、再提出を待ち、戻ってきた画像をもう一度検品します。
それなら、最初から不合格が出ることを見込み、必要数より多く集めて、基準を満たしたものだけを納品したほうが安くなるのではないか。最近、当社ではこの考え方が適用できる業務が増えていると感じています。
背景にあるのが、画像や文章を判定できるAIの進化です。AIによる一次選別を挟むことで、製造業では一般的な歩留まり管理を、数百件から数千件規模のBPOにも応用しやすくなってきました。
撮り直しを求めるなら、検品者はその場にいなければならない
画像収集で、ピンぼけ、見切れ、強い反射などがあったとします。作業者が対象物をまだ持っている間なら撮り直せますが、数日後に伝えても、すでに対象物を捨てていたり、同じ場所へ行けなくなっていたりします。
そのため、撮り直しを前提とした案件では、次のような工程になります。
- 作業者から成果物が届く
- 検品者がすぐに確認する
- 基準未満なら理由を伝える
- 作業者が修正または再取得する
- 検品者が再提出物を確認する
検品者は、提出がいつ来ても対応できるように待機します。短時間に提出が集中すれば、修正が間に合うように複数人を配置しなければなりません。検品件数が少ない時間にも体制を維持する必要があります。
原価になるのは、画像を見る時間だけではありません。不合格理由の記録、作業者への連絡、再提出期限の管理、未対応者への確認、元データとのひも付け、再検品まで発生します。
100件必要でも、100件だけ集めない
別の考え方は、100件を完成させるのではなく、100件の合格品を確保することです。
フィジビリで合格率が70%程度だと分かれば、100件だけ集めて30件を修正するのではなく、最初から150件程度を集めます。基準を満たしたものから100件を選び、不合格品については撮り直しを求めません。
この方式では、作業者が修正できる時間内に全件を確認する必要がありません。収集後にまとめて検品できるため、検品者の待機時間や提出件数の波に合わせた人員配置を減らせます。
修正をなくすと、検品が「今すぐ対応する仕事」から「後でまとめて処理できる仕事」へ変わります。
全件を人が見る場合でも、リアルタイムである必要がなくなるだけで運用は大きく変わります。空いている時間にまとめて処理でき、差し戻しの連絡や再提出の追跡も発生しません。
AIが不合格を決めるのではなく、人が見る候補を絞る
必要数より多く集める方式は、以前から考えられました。ただし、150件集めれば150件を人が検品しなければならず、余分に集めた分だけ検品費も増えます。小規模なBPOでは専用の検査システムを開発する費用も回収しにくく、修正方式のほうが採算に合うことがありました。
現在は、既存の画像認識AIやマルチモーダルAIを使い、専用モデルを一から開発しなくても一次判定を試せます。たとえばレシート画像なら、次のような条件です。
- レシート全体が画面内に収まっているか
- 文字を読める程度に鮮明か
- 端が切れていないか
- 強い影や反射がないか
- 手や物で明細が隠れていないか
- 同じ画像が重複していないか
AIが一次判定を行い、不合格候補だけを人が確認します。人も基準未満と判断した場合に不合格を確定し、AIが厳しく判定しすぎたものは合格へ戻します。
AIが合格としたデータについても、本番初期は人が全件を確認し、どの程度の不良品が混ざるかを測ります。精度が確認できた後は、案件の品質基準に応じて全件検品または抜き取り検品へ移します。
AIだけで報酬対象外を確定するのではなく、人が最終判断する設計にしておけば、誤判定によって基準を満たす成果物を不合格にするリスクも抑えられます。
人が最終的な品質を管理しながら、AIを一次選別に利用するこうした業務設計は、AI-in-the-loopとも呼ばれます。
AIが優秀になるほど、修正方式との差が開く
この方式で比較するのは、AIの誤判定によって発生する費用と、リアルタイム検品や修正対応をなくすことで削減できる費用です。
AIが不良品を誤って合格させれば、その成果物には報酬を支払ったものの、納品には使えません。これが選別方式における余分な原価です。一方、AIが合格品を不合格候補へ送っても、人が確認して合格へ戻せます。この場合に増えるのは人の確認工数です。
比較すべき関係は、次のようになります。
余分な成果物の収集費用+AIの誤判定による損失+人の確認費用
< リアルタイム全件検品+修正連絡+再提出管理+再検品の費用
AIが優秀になるほど、合格判定の中に混ざる不良品が減ります。余分に必要な収集数と、人が確認する候補も減るため、修正方式との原価差が開きます。
特に、ピンぼけ、見切れ、必須項目の欠損、重複など、合否を比較的明確に判定できる仕事ほどAIに向いています。反対に、「自然な表現か」「説明として十分か」のように判断基準が曖昧な仕事では、人の確認が多く残り、選別方式の効果は小さくなります。
大規模案件では工程ごとの歩留まりを測る
案件の規模が大きければ、一つの「検品」でまとめず、工程ごとの通過率を記録できます。
修正や再検品をせず、一度目の処理で基準を通過した割合は、First Pass Yield(FPY)またはRight First Time(RFT)と呼ばれます。最終的に納品できた割合だけでは、途中でどれだけ修正工数が発生したかは分かりません。初回合格率を分けて記録すると、見かけ上の納品率に隠れた手戻りを把握できます。
- 提出数に対するAI一次判定の通過率
- AIの不合格候補のうち、人も不合格とした割合
- AIの合格候補のうち、二次検品で不合格になった割合
- 重複や構成調整によって採用しなかった割合
- 最終的に納品へ使えた割合
仮に、AI一次判定の通過率が80%、人の二次検品の通過率が95%、重複や構成調整後の採用率が98%なら、全体の歩留まりは約74.5%です。1,000件の納品には単純計算で約1,343件の収集が必要になり、実運用では変動を見込んだ安全分を加えます。
全体平均だけでなく、作業内容、募集経路、データの種類、端末、仕様変更の前後などに分けて確認すると、不合格がどこで増えているかも分かります。
レシート画像であれば、コンビニと個人店、正面撮影と斜め撮影、通常サイズと長尺では合格率が異なる可能性があります。余剰数を全区分へ一律に加えるのではなく、歩留まりの低い区分だけ募集数を増やせます。
画像収集以外のBPOにも応用できる
この設計が使えるかどうかは、画像か文章かではなく、成果物を別の成果物で代替できるかによって決まります。
企業情報を1,000社分収集する案件なら、必須項目がそろわない企業を一件ずつ再調査するより、候補を多めに集めて条件を満たす企業だけを採用したほうが安い場合があります。AIでURLの有効性、必須項目の欠損、明らかな業種違いなどを一次判定できます。
ほかにも、商品情報の収集、営業リストの作成、短文の分類、OCR結果の補正、音声区間の抽出、AI生成文の候補選定などへ展開できます。
一方、特定の参加者からしか取得できない研究データ、取得費用の高い現地撮影、前後の作業に連続性がある成果物などは代替しにくく、修正したほうが合理的です。新しい一件を作る費用と、既存の一件を修正する費用を比べて決める必要があります。
製造業の歩留まり管理を、小規模なBPOへ持ち込む
製造業では、すべての不良品を修理して完成品にするのではなく、工程ごとの不良率を測り、必要な完成数から投入数を逆算する考え方が一般的です。
人手によるBPOでは、提出された一件を完成まで追いかける運用が選ばれやすく、修正連絡や再検品が増えていました。以前は自動選別の初期費用が高く、工場ほど大規模でなければ歩留まり管理が採算に合いにくかったことも理由の一つです。
AIによって一次選別の費用が下がったことで、数百件から数千件規模の案件でも、必要数より多めに作り、基準を満たした成果物を選ぶ工程が現実的になりました。
AIが不良品そのものをなくすわけではありません。基準を満たす成果物を低い費用で選び出せるようにすることで、不合格を見込んで多めに集める工程を成立させます。
AIで人の検品をなくすのではなく、人の検品を即時対応から、後でまとめて処理できる仕事へ変える。修正を前提とした個別管理から、歩留まりを前提とした全体管理へ変える。AIの導入によって本当に変わるのは、検品者の人数だけではなく、業務工程そのものだと考えています。
AI-ASSISTED QUALITY CONTROL
AIと人を組み合わせた検品工程を設計します
株式会社イングクラウドでは、フィジビリによる合格率の確認、AIで判定できる品質基準の整理、人による確認条件、必要数から逆算した収集計画まで、案件に合った大量処理の工程をご提案します。
