人間同士の誤解が解消されるまでをどう収録する?HCRC Map Task Corpus

人間同士の誤解を収録しようとしても、普通に雑談してもらうだけでは、分析しやすい事例はなかなか集まりません。誤解が起きても本人たちが気づかず、どこで解消したのかも分からないことがあります。

HCRC Map Task Corpusは、よく似ているものの一部が異なる地図を二人へ渡し、会話だけで同じ経路を再現してもらうことで、曖昧な参照、聞き返し、言い直し、誤解の発覚を自然に引き出した対話コーパスです。

本記事は公開コーパスと公開論文の紹介です。株式会社イングクラウドが当該研究へ関与したことを示すものではありません。

今回取り上げるコーパスと研究

HCRC Map Task Corpusは、録音・書き起こし・各種アノテーションが行われた128対話からなる研究用コーパスです。

さらに2026年のGrounded Misunderstandings in Asymmetric Dialogue: A Perspectivist Annotation Scheme for MapTaskでは、この全128対話を対象に、話者ごとの理解状態と誤解の推移を分析するアノテーションが試みられました。

二人が持つ地図はよく似ているが同じではない

一人は経路が描かれた地図を持つ「指示役」、もう一人は経路のない地図を持つ「作業役」になります。指示役は、自分の経路を相手の地図へ再現してもらわなければなりません。

二人の地図には多くの共通する目印がありますが、目印の有無、名前、位置、同じ種類の目印の個数などが一部異なります。相手の地図は見えず、頼れるのは会話だけです。

同じ言葉を理解しても、別の対象を見ていることがある

指示役が「白い山の右を通って」と言い、作業役も白い山を見つけたとします。返事だけを聞けば通じたように見えます。しかし、地図上の白い山が互いに別の位置にあれば、二人は異なる対象を想定したまま会話を進めます。

このような誤解は、直後には表面化しないことがあります。後の位置関係が合わなくなり、「その湖はこちらにはない」「山は二つありますか」と確認して初めて、以前の参照がずれていたことが分かります。

誤解を一発のラベルではなく変化として捉える

2026年の研究では、Map Task全128対話から13,077件の参照表現を対象に、話し手が意図した対象と聞き手が解釈した対象を追跡しています。さらに、同じ目印を繰り返し参照する1,665本の参照チェーンを抽出しました。

分析された誤解は239件で、全参照表現の1.8%でした。持続する誤解が少ないのは、人が会話中に少しずつ確認し、問題が大きくなる前に修復しているためだと考えられています。

同じ種類の目印が複数あると誤解しやすい

地図の違いのうち、誤解率が特に高かったのは、一方には同種の目印が複数あり、他方には一つしかない場合でした。この条件では参照表現956件中115件、12.0%が誤解と判定され、全体平均の1.8%を大きく上回りました。

話し手にとって「岩」は二つあるので区別が必要でも、聞き手には一つしかなければ、「岩」と言われただけで対象が決まったと思ってしまいます。互いに理解できたと信じているため、単純な聞き返しデータよりも発見が難しい誤解です。

誤解の収録には「情報の非対称性」を作る

誤解を自然に引き出す鍵は、参加者へわざと不自然な台詞を読ませることではありません。双方が異なる情報を持ち、協力しなければ完了できない課題を作ることです。

  • 地図や画像の一部を参加者ごとに変える
  • 一方だけが正解や完成形を知っている
  • 相手の画面や資料を直接見られないようにする
  • 会話だけで共同成果物を完成させる
  • 最終成果物から、理解が一致したか検証できるようにする

日本語で作る場合の論点

  • 「あれ」「そっち」「さっきの」の参照先を記録する
  • 相づちを理解済みの証拠と決めつけない
  • 誤解の発生、継続、発覚、確認、解消を別々に記録する
  • 発話だけでなく、参加者ごとに見えていた資料を保存する
  • 最終成果物や操作ログを対話と時間同期する
  • 第三者評価では、片方の視点だけでなく両方の情報を提示する

データ制作の実務で参考になる点

誤解の有無を一文ごとに判定するだけでは、当事者がその時点で何を信じていたかは残りません。最初の参照から、相づち、作業、矛盾の発覚、聞き返し、言い換え、理解の一致までを時系列で結ぶ必要があります。

また、誤解が少ないことは収録の失敗ではありません。人がどの小さな手がかりでずれを検出し、深刻な失敗になる前に修復したかも、対話AIを設計するうえで重要なデータです。

RESEARCH DATASET NOTE

誤解と修復を引き出す共同作業対話を設計します

参加者ごとに異なる情報を持たせた課題設計、対話収録、操作ログとの同期、参照対象・誤解・確認・修復のアノテーションまでご相談いただけます。

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