研究やAI開発のためにスマートフォン画像を集めるとき、写真の位置情報は常に削除すればよいわけではありません。屋外設備、道路、植生、店舗、看板、地域環境などを対象とするフィールドワークでは、撮影地点そのものが研究データになります。一方、参加者が顔、姿勢、身体、室内、私物、レシートなどを自宅や生活圏で撮影する調査では、正確な緯度経度が目的外の情報となり、居住場所や行動範囲の推定につながることがあります。

撮影前に決めるべきなのは、単純な「残す・消す」ではありません。収集時に取得するか、受領した原本に保持するか、納品データに含めるか、一般公開するデータに含めるかを分け、各段階で必要な位置精度と利用者を定めます。

撮影対象によって位置情報の役割は変わる

収集対象 位置情報の考え方 設計例
屋外設備、道路、植生、店舗、看板、地域環境など 撮影地点が分析対象の一部になる 画像内のGPSを保持する場合がある。必要なら撮影時刻や方位も収集する
地域差を調べる商品、表示、景観など 地域区分は必要でも、正確な地点までは不要な場合がある GPSは削除し、都道府県や市区町村を別項目で収集する
顔、全身、姿勢、手、肌、ほくろ、室内、私物、レシートなど 撮影場所が研究目的でなければ、自宅や生活圏を示す情報になり得る 原則としてGPSを記録せず、受領後にも残存を確認する
一般公開用データ 閲覧者や二次利用の範囲を管理しにくい 研究に不要な精度を削除し、必要なら都道府県や都市部・郊外などへ粗くする

例えば、設備の設置状況を地点単位で地図化するなら緯度経度が必要です。地域ごとの品ぞろえを比べるだけなら、市区町村や都道府県で足りるかもしれません。姿勢推定用の全身画像を自宅で撮影してもらう調査なら、通常、撮影地点は解析に必要ありません。先に分析単位を決め、それを満たす範囲に位置精度を抑えます。

取得・原本・納品・公開の4段階で管理する

収集時に必要な位置情報を、納品や一般公開まで残す必要があるとは限りません。次の4段階ごとに、保持する情報、アクセスできる人、保存期限を仕様書へ記載します。

段階 決めること 管理の例
1. 収集時 画像内のGPS、別フォームの地域回答、位置情報なしのどれにするか 使用するカメラアプリ、必須精度、提出経路を指定する
2. 受領原本 届いたGPSを保持するか、検品後に削除するか 受領・検品担当者にアクセスを限定し、保存期限と削除条件を決める
3. 納品データ 発注者・研究者へ渡す位置精度 契約した項目だけを残し、正確な座標を市区町村へ置き換える場合もある
4. 一般公開 不特定の利用者へ公開できる位置精度 不要なGPSを削除し、地域を粗くした公開専用データを作る

原本、納品用、公開用は同じファイルを上書きせず、別の領域で管理します。例えば、現地撮影の事実を検品するため原本にはGPSを残し、納品時には市区町村へ変換し、公開版では都道府県だけを残す設計が可能です。原本を残す理由がなければ、検品や変換の完了後に削除します。保持する場合も無期限にはせず、再検品、研究終了、納品後の一定期間など、目的に対応する期限を定めます。

必要な位置精度と収集方法をセットで決める

必要な精度 収集方法 用途の例
正確な緯度経度 画像内のGPSを保持し、撮影直後の元ファイルを指定経路で提出してもらう 設備点検、道路状況、植生分布、地点と画像の照合
市区町村・都道府県 GPSは削除し、フォームの選択項目として別に収集する 地域別の商品、表示、店舗環境の比較
都市部・郊外などの区分 区分の定義と判定方法を決め、区分値だけを収集する 生活環境による大まかな比較
不要 撮影時から位置情報を取得せず、受領後にも残存を検査する 顔、身体、室内、私物、レシートなど、場所を分析しない画像

地域を別項目で集める場合は、自由記述より選択肢や自治体コードを用いると表記揺れを防げます。「居住地」ではなく「撮影場所」を回答するなど、何を尋ねているかも明記します。反対に正確なGPSが必要な案件では、共有時の位置情報削除、スクリーンショット化、SNSやチャットによる再変換を避け、使用アプリ、ファイル形式、アップロード経路を指定します。

自宅や生活圏で撮影する案件は組み合わせに注意する

顔、身体、室内、私物などの画像には、それ自体に個人や生活環境を示す情報が含まれる場合があります。そこへ正確な撮影地点が加わると、住所や生活圏との結び付きが強くなります。撮影場所を分析しない案件では、GPSを取得しない設計を基本にします。

レシートには店舗名、店舗住所、購入日時、商品、会員番号などが含まれます。さらにGPSが加わると、参加者の生活圏や行動を推定しやすくなります。GPSを削除しても画像内の店舗住所は残るため、研究に必要な項目とマスキングする項目を分けて決める必要があります。

作業指示では、撮影対象だけでなく場所と背景も指定します。自宅であれば無地の壁の前などを撮影可能場所とし、表札や郵便物が写る玄関、学校・病院、撮影禁止の店舗などを除外します。第三者の顔、住所、車両番号、画面、書類、鏡や窓への映り込みが入った場合は、提出せず背景を変えて撮り直すよう明記します。フィールドワークでGPSを残す場合も、私有地や撮影禁止場所での撮影を認めるわけではありません。

同意文書と撮影指示に書くこと

位置情報を取得する場合は、「取得します」だけでなく、次の事項を参加者へ説明します。

  • 取得する情報と精度(緯度経度、市区町村、都道府県など)
  • 位置情報を必要とする研究・開発上の目的
  • 画像内のGPSとして取得するか、フォーム回答として取得するか
  • 原本、納品用、一般公開用のどこまで残すか
  • 閲覧できる組織・担当者・データ利用者の範囲
  • 保存期間、削除条件、第三者提供や一般公開の有無
  • GPSを取得できない場合の参加可否や再撮影の条件

同意文書では利用範囲を説明し、撮影指示では端末設定、撮影場所、提出経路、禁止事項を具体化します。GPSを取得しない案件でも、自宅や生活圏を示すものを写さないことと、位置情報を記録しない設定で撮影することを伝えます。

端末設定より、実際に提出されるファイルを確認する

iPhoneでは、カメラが位置情報サービスへアクセスできる場合に写真へ位置情報が記録されます。位置情報を取得しない案件では、「設定」からカメラの位置情報を「しない」に変更し、テスト撮影するよう指示します。Appleは、収集停止、既存写真からの削除、共有時だけ位置情報を外す方法を別々に案内しているため、端末内の原本と共有後のファイルが同じ状態とは限りません。詳しくはAppleの「写真」で位置情報メタデータを管理するで確認できます。

Androidはメーカーやカメラアプリによって設定名が異なります。「位置情報を保存」「位置タグ」などをオフにするか、使用するカメラアプリの位置情報権限を「許可しない」にしてテスト撮影する、という指示にします。Google フォトには、カメラが記録した場所とサービスが推定した場所があるため、画面表示だけでは提出ファイル内のGPSを判断できません。Googleの写真の撮影場所の情報を確認、編集するでも、共有方法によって元の撮影場所が残る場合があると説明されています。

標準カメラか別アプリか、HEICかJPEGか、写真として送るかファイルとして送るか、フォーム、クラウドストレージ、メール、チャットのどれを通すかによって結果は変わり得ます。作業指示は一般的な端末操作の説明にせず、案件で使用するアプリと提出経路に合わせて作ります。

パイロット収集で欠落・残存時の対応まで確認する

本収集前に、想定するiPhoneと複数メーカーのAndroidを使い、実際のカメラアプリ、ファイル形式、アップロード経路で少量の画像を集めます。GPSが必要な画像では座標と精度を、不要な画像ではGPSが残っていないことを確認します。あわせて、撮影日時や画像の向きなど必要なメタデータ、画像IDと回答項目の対応、ファイル名に氏名や端末所有者名が入らないことも検品します。

不適合 対応例
必要なGPSが欠落している 設定、共有方法、撮影アプリを確認し、原則として再撮影・再提出を依頼する。別情報から座標を推測して補完しない
不要なGPSが残っている 受領自体を不可とするか、隔離して削除するかを事前に決める。加工後データを再検査する
必要な精度と異なる 目的に合う精度へ変換できるか判断し、できなければ再収集する。公開用では必要以上の精度を落とす

収集後の画像を一括検査し、GPSを削除して公開用コピーを作る具体的な方法は、投稿ID1495「画像収集フォームで位置情報を自動削除できる?公開前に一括検査する方法」で説明しています。本記事では、その前提となる取得・保持・削除ルールを扱います。

位置情報以外も同じ検品表で確認する

GPSを削除しても、画像から場所や参加者を推定できる情報がなくなるとは限りません。顔、名札、表札、郵便物、住所、車両番号、会員番号、決済情報、QRコード、画面、鏡や窓への映り込み、氏名やメールアドレスを含むファイル名も確認します。GPS以外の撮影日時、端末情報、編集履歴を残すかどうかも、データ項目表にまとめます。

位置情報の扱いを画像が集まってから考えると、必要なGPSが失われて再撮影になったり、不要なGPSを含む原本の管理負担が増えたりします。研究目的、必要な位置精度、4段階の保持方針、同意、撮影指示、提出経路、不適合時の対応を一つの仕様にまとめ、パイロットで実ファイルを確認してから本収集へ進むことが重要です。

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