企業名、住所、電話番号、商品の価格、日付などは事実です。事実そのものは、通常は著作権で独占されるものではありません。
それなら、公開されている情報を集めたデータベースは自由にコピーできるのでしょうか。以前この点を調べたとき、個々の情報だけでなく、「何を収録するか」「どのカテゴリに分けるか」「どう検索できるようにするか」まで見なければならないことが分かりました。
現在は、公開データを機械学習用に加工したり、既存データへラベルを付けたりする機会も増えています。この記事では、事実、編集著作物、データベースの著作物、不法行為の違いを、過去の裁判例とデータセット制作の実務から整理します。
2026年9月14日確認
この記事は、データ制作の実務で確認している論点を整理したものであり、個別案件について法律上の判断を示すものではありません。実際の利用可否は、データの内容、取得方法、利用条件、利用目的などによって変わります。
個々の事実と、データベース全体は分けて考える
「東京都台東区にある会社の住所」「ある店舗の電話番号」「商品を購入した日付」といった事実は、それだけで創作的な表現になるものではありません。
一方、大量の情報のなかから掲載対象を選び、独自のカテゴリを作り、検索しやすい形に構成したデータベースには、別の検討が必要です。
著作権法では、素材の選択または配列によって創作性を持つ編集物を「編集著作物」としています。また、情報の選択または体系的な構成によって創作性を持つデータベースは「データベースの著作物」として保護されます。
| 対象 | 考え方 |
|---|---|
| 個々の事実 | 事実そのものは通常、著作権で保護される表現ではない |
| 文章・写真・イラスト | 創作的な表現であれば、個々の素材に著作権が生じる |
| 編集物 | 素材の選択や配列に創作性があれば保護される可能性がある |
| データベース | 情報の選択や体系的な構成に創作性があれば保護される可能性がある |
ここで保護されるのは、収録されている個々の事実を独占する権利ではありません。どの情報を選び、どのような体系で構成したかという創作的な部分です。
カテゴリ分けが問題になったタウンページデータベース事件
情報の選択や分類が争われた例として分かりやすいのが、タウンページデータベース事件です。
電話番号、住所、掲載名などの個々の情報は事実です。しかし、NTTのタウンページデータベースは、それらを単純に五十音順で並べただけではありませんでした。
- 外部からの問い合わせを想定していない電話番号を掲載対象から外す
- 正式名称、通称、屋号などから掲載名を決める
- 資格が必要な業種では無資格者を掲載しない
- 利用者が探しやすい独自の職業分類を作る
- 事業内容を確認し、各事業者を適切な職業分類へ割り当てる
- 業界や利用者の変化に応じて分類体系を見直す
判決で認定された職業分類は約1,800に及びます。分類を新設・変更するときは、社会的な認知度、既存分類との重複、分類の広さなどを検討し、最終的には担当者の経験によって判断していました。
東京地方裁判所は、この情報の取捨選択と体系的な構成に創作性があるとして、タウンページデータベースをデータベースの著作物と認めました。被告は職業分類と電話番号情報を取り込んで別の業種別データを作成しており、差止め、廃棄、約3,252万円の支払いが命じられています。判決の詳しい事実関係は、裁判所が公開している判決文で確認できます。
この判例から、カテゴリを作れば必ず著作権が認められるとはいえません。誰が作っても同じ分類になる場合や、一般的な分類をそのまま使った場合には、創作性が認められないことも考えられます。タウンページでは、長年の調査と判断による独自の分類体系と、個々の情報の当てはめまで含めて判断されています。
記事見出しの著作物性が否定されたヨミウリ・オンライン事件
著作物に当たらない情報を利用したにもかかわらず、不法行為による損害賠償が認められた例もあります。2005年のヨミウリ・オンライン事件です。
この事件では、読売新聞社のウェブサイトに掲載されたニュース記事の見出しが利用されました。知的財産高等裁判所は、対象となった見出しについて、出来事を短い文字数で正確に伝えるという制約があり、著作物として保護される創作性は認められないと判断しました。
それでも不法行為が認められたのは、単に一つの見出しを利用したからではありません。
- 営利目的で利用していた
- 公開直後で情報価値の高い時期に取得していた
- 反復継続して、ほぼそのままコピーしていた
- 約2万サイトに見出しを配信していた
- 見出しが有料の取引対象になるなど、独立した価値を持っていた
- 読売新聞社の情報提供事業と競合する面があった
裁判所は、この一連の利用が社会的に許容される限度を超え、法的保護に値する利益を侵害したと判断し、約23万7,000円の損害賠償を認めました。知的財産高等裁判所の判決要旨には、著作物性を否定した理由と、不法行為を認めた事情がまとめられています。
したがって、この判例を「著作物でない情報でも、コピーすれば不法行為になる」と一般化するのは適切ではありません。利用した量、頻度、時期、目的、取得に要した労力、相手の事業との競合などが重なった事案です。
著作権で保護されないものを、不法行為で広く保護できるわけではない
ヨミウリ・オンライン事件だけを見ると、著作権で保護されない情報も、民法上の不法行為によって広く保護されるように見えます。しかし、その後の最高裁判決も確認する必要があります。
2011年のいわゆる北朝鮮映画事件で、最高裁判所は、著作権法による保護の対象にならない著作物の利用について、著作権法が規律する利用上の利益とは別の法的利益を侵害するなどの特別な事情がない限り、不法行為にはならないという考え方を示しました。最高裁判所の判決資料でも、この判断枠組みを確認できます。
著作権法が保護しないものについて、「苦労して作ったから」「コピーされたから」という理由だけで、同じような独占的保護を不法行為によって与えることはできない、という整理です。
一方で、相手の営業を妨害する方法で取得・利用した、契約やアクセス制限に反した、営業秘密や個人情報を利用したなど、著作権とは別の問題が生じる場合があります。利用可能性は「著作物かどうか」だけでは決まりません。
公開されていることと、自由に複製できることは違う
ウェブ上で閲覧できる情報は、技術的にはコピーできることが多いものです。しかし、ブラウザで見られることは、データベース全体の取得や再配布を認めているという意味ではありません。
公開情報をデータセットへ利用するときは、少なくとも次を分けて確認します。
| 確認対象 | 見る内容 |
|---|---|
| 個々の情報 | 事実か、創作的な文章・画像などか |
| 情報の集合 | 選択、配列、分類、検索構造に創作性があるか |
| 利用条件 | ライセンス、ウェブサイトの規約、APIの条件 |
| 取得方法 | アクセス制限を回避していないか、過度な負荷を与えていないか |
| 利用方法 | 研究、社内利用、公開、販売、再配布のどれか |
| 著作権以外 | 個人情報、プライバシー、営業秘密、契約など |
一次情報を複数の公開元から自分で調査し、独自の基準でデータを作ることと、他社が費用をかけて作ったデータベースをまとめて複製することは、同じ情報を含んでいても事情が異なります。
アノテーションやラベル設計にも人の判断が入る
データセット制作では、元データを集めた後にも多くの判断が発生します。
レシート画像のアノテーションであれば、店舗名、日付、商品明細、合計金額、税額、個人情報など、何をラベルとして定義するかを決めます。二行にまたがる商品明細を一つの領域として囲むのか、別々に囲むのか。値引きやポイントを商品明細に含めるのか。こうした判断を積み重ねて、データセット全体の構成を作ります。
ただし、ラベル名を付けたりカテゴリ分けをしたりすれば、常に著作権が生じるわけではありません。分類の選択肢が限られている場合、一般的な標準を使った場合、判断が機械的に決まる場合などは、創作性の評価も変わります。
それでも、データの品質や再利用性という点では、誰がどの基準で判断したかを記録する意味があります。法的な権利の有無とは別に、ラベル定義、作業マニュアル、判断例、検品方法を残すことで、利用者はデータの作成過程を確認できます。
データセットを作るときに残しておきたい記録
外部情報を利用してデータセットを作る場合、完成したファイルだけでは、後から利用条件を確認できなくなることがあります。私たちは、次のような情報を残しておく必要があると考えています。
- 元データの名称とURL
- 取得日と取得方法
- 取得時点のライセンスや利用条件
- 収録対象を選んだ基準と除外基準
- カテゴリやラベルを設計した理由
- 元データに加えた加工・修正
- 人が判断した部分と自動処理した部分
- 公開・再配布できる範囲
- 既知の誤りやデータの限界
これらは権利関係を確認するためだけの記録ではありません。作業者への説明、検品、研究の再現性、データセットカードやREADMEの作成にもそのまま使えます。
「事実だから自由」と「全部に権利がある」の間で考える
データセットを扱っていると、二つの極端な説明を見かけます。一つは「事実だから自由に使える」、もう一つは「人が手間をかけたデータにはすべて権利がある」というものです。
実際には、個々の素材、情報の選択、分類体系、データベースの構成、利用条件、取得方法、利用目的を分けて見なければなりません。タウンページデータベース事件とヨミウリ・オンライン事件も、単にコピーしたという一点ではなく、どの部分に創作性や価値があり、どのような方法で利用したかが検討されています。
公開データを使うときも、自分たちでデータを公開するときも、「著作権があるか、ないか」だけで終わらせず、データがどのように作られ、どの条件で利用できるのかを説明できる状態にしておくことが重要です。
RESEARCH & AI DATA SUPPORT
研究・AI開発用データの制作についてご相談いただけます
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