人は「最高だね」という一言を、心からの称賛にも、失敗への皮肉にも使います。冗談を真顔で言うこともあれば、本当の話が冗談のように聞こえることもあります。
AIが嘘や冗談を理解するには、単語の意味だけでなく、直前の出来事、話者の意図、声の調子、表情、聞き手の反応まで見る必要があります。本記事では、言葉どおりではない発話を研究する際、どのようなデータが使われるのかを整理します。
嘘、冗談、皮肉は別の現象です。研究上の定義や収集方法も異なるため、一つの「本音判定モデル」でまとめて扱えるとは限りません。
嘘と冗談と皮肉は何が違うのか
| 表現 | 話者の意図 | 判断に必要な情報 |
|---|---|---|
| 嘘 | 相手に事実と異なる内容を信じさせる | 事実、話者の知識、行動 |
| 冗談 | 事実として信じさせるより、面白さを共有する | 場面、関係性、聞き手の反応 |
| 皮肉 | 表面上の意味と異なる評価や態度を伝える | 前後の文脈、期待と現実の差 |
同じ文でも、誰が誰に、どの場面で言ったかによって分類が変わります。発話文だけを切り出すと、人間にも判定できないことがあります。
皮肉研究では会話の前後を一緒に集める
MUStARDは、テレビ番組の会話から皮肉発話を集め、文章だけでなく音声と映像も収録したデータセットです。皮肉を言った一文の前にある会話も残されており、発話が生まれた状況を確認できます。
文章だけでは分からない皮肉でも、強調された声、長い間、表情、相手の反応が手掛かりになる可能性があります。ただし、作品中の演技を学ぶことと、日常会話の皮肉を理解することは同じではありません。
冗談には「面白いか」という主観が入る
冗談のデータでは、発話者が冗談として言ったか、聞き手が冗談として受け取ったか、評価者が面白いと感じたかを分ける必要があります。面白さは年代、文化、関係性によって変わるため、単純な多数決では少数者の解釈が消えることがあります。
Humicroeditでは、ニュース見出しの一部分を置き換えて冗談を作り、編集後の見出しを5人ずつが評価しました。作る人と評価する人を分けることで、作者以外にも面白さが伝わるかを確認しています。
嘘のデータは正解の確認が難しい
自然な会話から嘘を集めても、何が事実だったか確認できなければ正解ラベルを付けられません。そのため研究では、参加者へ事実と異なる説明をするよう指示した実験データや、正解を確認できるゲーム、公開記録と照合できる発言などが使われます。
しかし、実験で指示されてつく嘘と、利害のある現実の嘘では緊張や言動が異なります。データ取得のしやすさと、利用場面への近さにはトレードオフがあります。
虚偽レビュー研究では、クラウドワーカーへ宿泊していないホテルのレビューを書いてもらい、依頼によって真偽が分かるデータを作った例があります。
「声が震えたから嘘」とは限らない
視線、声の高さ、言いよどみなどを嘘の兆候として扱いたくなりますが、緊張、性格、言語能力、障害、撮影環境でも変化します。特定の特徴を真偽へ直結させると、誤判定や属性による偏りを生む可能性があります。
必要なのは発話ラベルだけではない
- 対象発話と前後の会話
- 話者と聞き手の関係性
- 事実確認の根拠
- 音声、表情、身振り
- 聞き手がどう解釈したか
- 評価者が迷った事例と不一致
AIに言外の意味を学ばせるデータでは、短い文を大量に集めるだけでなく、なぜその判定になったかを再現できる情報が重要です。
CONTEXTUAL LANGUAGE DATA
文脈を含む対話データの設計からご相談いただけます
株式会社イングクラウドでは、会話収録、前後文脈の整理、音声・映像の対応付け、複数評価者によるアノテーションまで支援します。
