データセットでは何を隠すべきか?個人情報とマスキング範囲の考え方

画像や文書をデータセットとして公開するとき、「個人情報に当たるものだけを隠せばよい」と考えると判断に迷います。氏名や顔は分かりやすい一方、クレジットカード番号の下4桁、車のナンバー、レシートの購入日時などは、それだけで本人を特定できるとは限りません。

それでも、利用目的に必要がなければ公開前に隠したほうがよい情報があります。この記事では、法律上の個人情報に該当するかという判断と、公開データへ残すかという実務上の判断を分けて整理します。

2026年9月15日確認
本記事は一般的な実務上の考え方を整理したもので、個別案件に対する法的助言ではありません。公開方法や提供先によって判断が変わる場合があります。

「個人情報か」と「公開してよいか」は別の問題

個人情報保護法では、個人情報を、生存する個人に関する情報で、氏名などによって特定の個人を識別できるもの、または個人識別符号を含むものとしています。他の情報と容易に照合することで本人を識別できる場合も含まれます。

一方、データセットの公開では、個人情報に該当するかだけでなく、公開する必要性と本人への影響も考える必要があります。一度インターネットへ公開したデータは複製され、完全に回収できない可能性があるからです。

確認する問題 主な判断内容
法律上の個人情報か 本人を識別できるか、他の情報と容易に照合できるか
研究・開発に必要か その項目を残さないと目的を達成できないか
本人に不利益があるか 行動、生活圏、契約情報などを推測されないか
公開後に管理できるか 再配布や別目的での利用を制御できるか

単独では本人を特定しにくい情報もある

個人情報保護委員会は、携帯電話番号やクレジットカード番号について、さまざまな契約形態があり、あらゆる場合に本人を識別できるとは限らないため、それ自体を個人識別符号には位置付けていません。ただし、氏名などと容易に照合できる場合は個人情報に該当すると説明しています。詳しくは個人情報保護委員会のFAQで確認できます。

これは「番号なら自由に公開できる」という意味ではありません。データセットに不要な番号を残す合理性がなければ、削除またはマスキングするほうが安全です。

公開前に検討したい情報

情報 考え方 公開用データでの対応例
氏名・住所・電話番号 本人を直接識別しやすい 原則として削除またはマスキング
顔が判別できる画像 画像から本人を識別できる場合がある 利用目的と公開同意を確認
クレジットカード番号の下4桁 単独では識別しにくくても照合材料になる 目的に不要ならマスキング
車両のナンバー 一般の人が直ちに所有者を照会できるとは限らない 場所・日時との組合せを考え、原則マスキング
会員番号・注文番号 管理者側では本人へ照合できる可能性がある 公開用IDに置換
購入日時・撮影日時 店舗や位置情報と組み合わせると行動を推測できる 日単位に丸める、削除するなど目的に合わせる
店舗名・所在地 通常は店舗の情報だが、生活圏の推測材料になる 研究上の必要性と組合せリスクを確認
GPS・端末情報 画像に見えなくてもファイル内部に残る 公開用ファイルからメタデータを削除

レシート画像は情報の組合せに注意する

レシートには、店舗名、住所、購入日時、商品、金額、決済方法、会員番号などが同時に記載されます。一項目だけでは本人が分からなくても、複数項目を組み合わせると、生活圏や行動を推測できることがあります。

OCR研究で店舗名や日時が必要な場合でも、カード番号の一部や会員番号まで必要とは限りません。項目ごとに「研究上残す理由」を確認し、説明できない情報は公開用データから除くという考え方が実用的です。

匿名化は画像だけでは終わらない

画像内の文字を黒く塗っても、別のファイルから本人を逆引きできることがあります。公開前には、次の情報を合わせて確認します。

  • 画像に写っている情報
  • EXIFなど画像内部のメタデータ
  • ファイル名
  • CSVやJSONに含まれる属性
  • 作業者IDと氏名を結ぶ管理表
  • フォルダ名や提出日時

社内管理用IDをそのまま公開せず、公開用の連番へ置き換えることも重要です。原本、管理用データ、公開用データを別に保管すると確認しやすくなります。

迷ったときは必要性から考える

境界事例をすべて「個人情報か、そうでないか」だけで解決するのは困難です。実務では、次の順番で考えると整理しやすくなります。

  1. 研究・開発の目的を確認する
  2. 目的に必要な項目を決める
  3. 本人を識別・推測できる組合せを確認する
  4. 不要な情報を削除・置換・マスキングする
  5. 公開予定のファイル一式を別担当者が再確認する

個人情報に該当しない可能性がある情報でも、目的に不要で、本人への影響があり、公開後に回収しにくいなら、残さないという判断ができます。反対に研究上必要な情報を残す場合は、利用目的、公開範囲、同意内容を記録しておく必要があります。

RESEARCH & AI DATA SUPPORT

研究・AI開発用データの制作についてご相談いただけます

株式会社イングクラウドでは、画像収集、個人情報の確認・マスキング、OCR結果の人手修正、アノテーション、公開用データの検品まで対応しています。

学術研究・実証実験支援について相談する